あの頃は、きみと二人で春風の、菜の花咲いた細道を、走り回った夕暮れに、黄金色した明星が、真珠のように輝いて、辺り一面染め抜いた、真っ赤な大気きみと僕。明日が来てもこの原を、遙かに歩むと思ってた。やがて小さな学校の、卒業式の帰り道、共に遊んだ友たちの、別れを惜しんで泣くきみの、小さな腕を肩寄せた。黄金色した明星が、おぼろな風に揺れていた。いつか僕らのこの路も、別れてしまう時が来て、触れ合うような感情の、結びつきさえぷっつりと、消えて声さえ聞こえない。悲しくなってとぼとぼと、二人歩いた帰り道。
希望に満ちた僕達は、同じ校舎の桜の木、舞い散る花びら浴びながら、少し大人になりかけた。背(せい)の高さを気にとめて、髪のかたちを気にとめて、廊下で会えば知らぬ振り。逃げいるように照れながら、足を速めてすれ違う。それでも君の胸のうち、つたわるように僕のうち、この菜の原で落ち合って、こっそり帰った夕暮れに、煌めきまたたくあの星は、同じところに咲いていた。嬉しくなってきみの靴、軽く蹴っては走り出す。きみは僕をおいかけて、無邪気なままで夕暮れの、帰り道さえ楽しかった。
冷たい風が葉をちぎり、夕日を吸った赤とんぼ、空一面にうめる頃、またあの星が煌めいた。染まった君の横顔が、菜の花みたいに美しく、あの星みたいに遠かった。蜻蛉に心奪われて、見知らぬ夢を吹き込まれ、生まれ変わった蝶のよう、そっと微笑む口元に、僕の知らない君がいた。見知らぬきみの髪の毛を、風がすらりとなびかせて、手をかざすときくびすじが、赤く染まって振り向いた。返す瞳に吸い込まれ、僕はその場に立ちつくす。それからきみは話しても、遠く離れた別の人。心通わぬ遠い世(よ)の、憧れのように去ってしまった。
菜は咲く野、きみを想うよ、この原を
夢みあわしや、芳葉(ほうよう)の月
2008/4/17