人並み途絶えた夕暮れの町を
しずくは静かにしたたるでしょう
目映く街灯を写しかえす路面を
傘もささずに自転車が過ぎてゆく
移り変わりの信号のまたたきが
ガラスにしずく濁って煌めけば
僕は幼い頃に膝もとから眺めた
おとぎ話のような雨降りの夕闇の
宝石のようなイルミネーションを想い出す
町明かりがあんなにもきらきらと
夢が溢れるようにはずんでいた頃の
幸せと今の寂しさをブレンドして
コーヒーのようにかき混ぜたら
砂糖とミルクの柔らかさまでも
苦しみで消えるのだろうか
信号が点滅したり黄色を跨いで
音もなく赤に染まるみたいに
青葉もいつか夕焼けに染まって
秋風に吹かれて舞い散るみたいに
もう二度と蒼く戻れない
歩み続ける私たちについて
魂だけ研かれもせずに
不釣り合いの歪(いびつ)さのまま
笑いと快楽だけを求めながら
歩き続ける私たちについて
瑞々しさを無くし掛けた
くすんだスプーンをそっと
くるくる回す寂しさだけが
積もるようなこの夕暮れについて
煩うような窓をつたわって
涙みたいにしずくがこぼれ落ちて
コーヒーの香りが淋しいくらいに
ほのかに舞い上がるのです
2008/04/12