機械整備工のおじいさん

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機械整備工のおじいさん

機械整備工のおじいさんの所には
毎日毎日古くなった機械たちが
疲れ果てた部品をさび付かせて
呻くように担ぎ込まれるのでした
軋んだ歯車は悲鳴をあげて
固まったモーターはぎしぎし揺れて
我慢できない痛みをこらえて
泣きながら働かされ続けた
その苦しみを訴えるのでした
おじいさんは来る日も来る日も
優しく研き直して油を差して
ある時ははんだを使って
ある時はねじを廻して
つらい体の痛みを辛うじて
取り除いてあげるのでした

でも本当はもう体全体が
すっかり疲れ果てているのですから
もう休ませてやりたい気もするのですが
その機械から仕事を奪ったらきっと
後は解体されるばかりですから
おじいさんはきっと送り返して
もう少しのあいだだけ頑張って
ぎしぎしと働いてもらうのでした

おじいさんにも若い頃があって
おじいさんはまだ青年の頃から
年老いた機械たちを引き取っては
懸命にその体をいたわりながら
優しくリハビリをおこなって
持ち主の元に送り返しました
時には努力にもかかわらず
機械は死んでしまうこともありました
時には何年も前の友人が
再び送り込まれることもありました
おじいさんの元に来る人々は
それはもう商売のことですから
当然の顔して機械を持ち帰るのですが
時々は感謝の気持ちを込めて
年賀状をくれる人もいたのです
そうやっておじいさんは長い間
日本が戦争に負けて立ち上がって
いつか豊かな復興を手に入れるまで
ひたむきに機械を送り返しながら
遠い月日を重ねてきたのです

そしていつしか体もきしみ
機械に触れる手も醜くしわくちゃで
足もずきずきと痛んで瞳(ひとみ)も辛く
全身疲れ果ててぎしぎしと
まるで壊れかけた機械たちのように
病院で必死にリハビリしながら
それでもまだ工具を握りしめて
整備を続けているのでした

初めて自分の直してきた機械たちの
自由に動けない惨めさと
さびては擦(す)れる間接のきしみが
ずきずきと痛む苦しみが
自分にも分かった気がするのですが
ここでもし手を止めてしまったら
もう自分の歩みの向こうには
この鼓動を止める静かな河が
私の来るのを待っているのだと想えば
今はまだ誰かのために少しだけ
指先震える工具を握りしめて
今日も送り込まれる老いた友達を
せっせと直し続けるしかないのです

P.S.
ただそれだけが私たちの命の意味で
他には何一つないのですから
何かせっせと体はてるまで
繰り返すことの出来る何かを
掴まえられたらいいのだけれど

2008/01/07

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