ウェヌスの宵空

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ウェヌスの宵空

 繁栄を極めたいにしえの都バグダットに鉄の怪物が飛翔し火を吐く時、町並みから恐ろしい破壊の音がこだまして炎が閃光のごとくにぱっと燃え上がる。ブラウン管の前に座る私には、書くことは何もない。世界とはまるで縁故もない半人前の文章のことを少し悲しみながら、かといって向上心もなくてグラス一杯のワインを玩び、酔いを楽しむための音楽をどれにしようかとケース棚を見回している。不意に思い出したように、悲鳴の聞えるテレビのスイッチを切って、古い唄を書き記す。

「ウェヌスの宵空」
うぐいすは歌えど
われは黙す
いつの日かわが春は来たらん
―――(読み人知らず、3、4世紀ごろか)

 ちぇっ、今日こそは先に進める気がしたのに、結局人の唄で立ち止まったまま、時計の針だけが夜明けに向かって刻みを知らせる。言葉は見つからない。

「とおせんぼ(らくがき)」
日暮れ近くてとおせんぼ
若葉そよいで夕空に
染まっていたのは何時の日か
―――(読み人知る、21世紀ごろか)

 一年を顧みて残されたものが何もなく、今日を振り返っても昨日を振り返っても同じことが明日(あす)も続くなら、未来は何のためにあるのだろう。あなたにとって生きた証とはなんですか。今楽しいことがありますか。それはどんなことですか・・・・・馬鹿げた虚言を書くものではない。今日はもう寝ます。

作成時2003.3.23頃
改訂2007/3/11

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