若きウルフィアスはユーサーと年が近く、
王が就任する前は共に野を駆け、
森を探索し、剣試合を行なった仲である。
森の霊に騙され崖から落ちかけたユーサーを救ったこともある。
不思議な猛獣を掴まえようとして、剣を折られ、
ユーサーに助けられたこともある。
ユーサーがヴォーティガンに立ち向かった時、
先陣を切って敵に切り込んだのは彼である。
優れた技量を皆に認められ、
ユーサーが王となった後も、
他の騎士達から妬まれることなく、
王の側近の座に就いた。
年配の家臣からも息子のように慕われるウルフィアスは、
ただちに王の元に向かった。
謁見を求め、
士気に関わることを説き、
嘆息の理由を尋ねれば、
心許したユーサーも、
ついに秘めた想いを打ち明けることにした。
「笑うなウルフィアス。
我が悩みとは、
かのティンタージェル王妃イグレインに灼熱の愛情を抱き、
眼前(がんぜん)の敵を討ち果たせば、
イグレインの命の行方が心配でたまらず、
味方の指揮に迷いが生まれたのだ。」
さすがのウルフィウスも突然の恋の告白には茫然自失、
返す言葉も見つからない。
ユーサーは咳き込むように、
「お前達をまとめるべきものが、不甲斐ないことだ。」
といって、またしてもため息をついた。
何と情けない。
これがブリタニアを束ねる竜王の姿だろうか。
さてはゴーロイスの突然の退城も、
この愛情と関係しているに違いない。
我々はこんなたわけた恋物語のために、
剣を振い血を流していたのだろうか。
ウルフィアスは軽く頭を振り、
さすがに内心腹も立ったが、
「兵を駆り立て、
戦争を起こすほどの恋愛などあるでしょうか。」
と穏やかに戒(いまし)めれば、
「笑うがいい、
私にとってはブリタニアに匹敵する大事なのだ。
恋の炎の恐ろしさは、お前の方がよく知っているではないか。」
といって、急に子供っぽい表情をしてみせる。
ユーサーは激情の人だ、
ひとたび炎が立ったからには、後には退けぬ。
豊かな湿原でさえ焼け野となるまで燃え続けるだろう。
ウルフィアスは、
かつて恋人への苦しみを笑われたことを思い出し、
ちょっとからかってやりたい気がしたが、
今は臣下と王である。
それほどの思いなら、
あるいは天啓(てんけい)による恋慕かもしれないと考え直し、
「それならば、私が術使いのマリーンを捜して来ましょう。」
と決断した。
王は眼が丸くなるほど驚いた。
「マリーンだと。
あらゆる術を操り、
人の心を読み、
未来を予言する伝説の術使いを、
お前は知っているのか。」
「いいえ。
ただ配下の兵達が告げるところ、
怪しき術を使う男が、この戦をかく乱したそうです。
宙に浮いて術を操ったと。」
「なんだと、
空駆けるマーリンのことか。」
「伝説が真実を映す鏡なら、
彼はこの近くにいるはずです。
私がきっと探して見せます。」
王は全てをウルフィアスに委ね、
数日は戦も仕掛けず陣内に留まった。
ティラビル城ではペンドラゴン恐れるに足らずと士気が高まり、
ユーサーの陣では牙を抜かれた竜は眠るよと噂された。
そのころウルフィアスは、
コーンウォールを馬で駆け回っていた。
捜査の兵を送り、自らも集落を尋ね巡り、
ついでに敵の様子なども聞き出してみるが、
ゴーロイスを褒める言葉ばかり聞かされるは、
マーリンの居所も分からないまま、
何の収穫もなく途方に暮れていた。
とうとうやけを起こして、
森の中で
「マーリンよ、マーリンは今いずこ!」
と大声で叫び回りながら、
こんちきしょうと伸びた草木を剣で蹴散らし、
枝を切り裂いて大地を踏みならした。
いきなり蔦が足に絡みついてきた。
うわあと思う間もなく、体は地面を滑り、
「森の生命を奪う者に永遠の呪いこそあれ!」
周辺の木々が一斉に怒りの言葉を投げかける。
彼は底なしの黒い沼に引き込まれかけた。
そこへエサを求めたはぐれ狼が、
「沼よりは俺の腹の中に入れ!」
と叫んでウルフィアスを奪おうとしたので、
この隙にウルフィアス全力を振るって、
外れた蔦を切り裂いて狼を威嚇し、
這々の体(ほうほうのてい)でその場を逃れたのである。
後ろでは狼が蔦に絡まれ、
また蔦を噛み切って殺し合い、
周囲の木々が激しい罵声を浴びせかけている。
息を切らして森を逃れたウルフィアス、
まだ心臓がばくばくと音を立てている。
何だか急に腹が立ってきた。
「へん、何がマーリンだ。
そんな魔術師みたいな人間が居てたまるか。」
と、ほとんどやけの気味で草原まで逃れると、
「これがブリタニアの重臣がする仕事だというのか。」
ほとんど半泣き状態に陥(おちい)ってしまった。
しばらく惚けたように座り込んでしまったウルフィアス、
ようやく疲れ切った足を上げると、
もう知しったことかと帰路についたのである。
2007/04/15掲載
2007/06/08改訂