コーンウォールに戻ったゴーロイスは、
ユーサーに反旗を翻すブリトンの王達に書状をしたためた。
「今、諸王立ち上がり、
背後よりユーサー軍に迫れば、
我々もまた兵を繰り出し、
ペンドラゴンの軍は敗走するであろう。」
これを参謀にして話術に長けるブラシャスに渡し、
王達の説得に向かわせることにしたのである。
もとよりブラシャスの進言を採用したに過ぎぬ。
気さくな王は城門に立つと、自らブラシャスを送り出した。
「ブラシャスよ、
今はお前が頼りだ。
よろしく頼むぞ。」
「王よ、
ティラビル城にユーサーを足止めすることが、
今は勝敗の分かれ目です。」
「我を誰と思う。
兵の扱いなら、
ユーサーなどものの数ではない。」
「王よ、
敵は様々な策を用いるでしょう。
期を見て先陣を蹴散らしても、
決して深追いはせず、
援軍の到着をお待ち下さい。」
「もう分かった、何度も言うな。
お前と来たら、
若造のくせにワシよりも沈着冷静なのだからな。
さあ、行くがよい。」
このように王が言えば、
ブラシャスはなんだか急に恥ずかしくなり、
「申し訳ない」と王に礼を取ると、
ただちに身をひるがえし、
王城を後にした。
荒波を越えて海鳥が、
彼の走る彼方に飛んでいく。
ブラシャスはティンタージェルで一番の忠臣であり、
まだ年も若い青年でもあり、
ゴーロイスを実の親のように慕っていたのだった。
王は忠臣の言葉に従った。
すなわちイグレインをティンタージェル城に残し、
兵と騎士達を率いてティラビル城に向かうと、
十分な武器と食料を蓄え、
守備を固めるべく城を鍛え直した。
迫り来るユーサー軍に備えるためである。
やがて諸王の王を掲げる旗が、
城壁から望み得る頃には、
備えを固めたゴーロイスも、
先陣を蹴散らすべく城門を打って出る。
ついに双方の憤怒が大地を覆い、
落雷となって火花を散らすがごとく、
激しい乱闘が開始したのである。
深追いをせず進軍を斥けるゴーロイスのいくさは見事であった。
まるで湖に返された魚のごとく、
ユーサーの軍隊を駆けずり回り、かく乱し、
弱きを挫いては、強きを逃れ、
怯んだ隙を見てティラビル城に舞い戻る。
何度か待ち伏せの計略を仕掛けてみたが、
いざとなるとゴーロイスを筆頭に兵を切り崩す荒武者達の、
鬼のような突撃に、見事に包囲を突破され、
そのままユーサー目がけて迫った時などは、
竜王の軍に危機が訪れるほどだった。
こうして7日が過ぎてもティラビル城は陥落せず、
ユーサーは激戦の中にありながらも、
「はあ」とか「ふう」とか、
情けない溜息を繰り返すばかり。
士気の上がらないこと甚(はなは)だしい。
ついには兵達にまで溜息が伝染し、
「はあ」とか「ふう」とか呟くのを見て、
武将達は大いに不審を強めた。
このまま戦局が長引けば、
どこのブリトンの王達が、
どこの異民の部族達が、
背後より迫り来ないとは限らない。
「ペンドラゴン王は何を思い悩むか。」
見かねた臣下達は悩み、
意見を出し合ったが答えは出ない。
ともかくも、
直に聞いてみるのが一番だということになって、
王が気を許して側に置いている若き騎士ウルフィアスを使わし、
王の心意を尋ねることにしたのである。
2007/04/12掲載
2007/06/08改訂