アーサー王の物語り(4)

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4.ティンタージェル風雲急を告げるのこ

はっと我に返った。
しまったと思った。
慌ててユーサーの手を振りほどいて走るイグレインの、
初めて高鳴る胸の怪しい鼓動、
この抑えきれない情熱は、
豊かな酒のせいか、
それとももっと恐ろしい・・・・。

「おい、どうしたというのだ。」
ティンタージェル王は妻の駆け去る姿を認め、
大声を出して呼び止めたが、返事は来ない。
怪し、と思って後を追った。
イグレインは夜の大気に触れ、
王宮の回廊から見える町並みを背に、
風に吹かれつつ息を切らし、
巨大な柱に寄りかかっている。
暗がりのせいか、顔が青く輝いた。

「どうしたというのだ。
日頃の慎みを忘れたような慌てぶり。
お前らしくもない。」
とティンタージェルの王が尋ねれば、
激しい胸に手を当てつつ震える声で、
「ああ、あなた、なんということでしょう。」
とだけ言って、呼吸を整えている。
王は不審な顔で言葉を待つ。
「あなた、お聞き下さい。国を収める強大な王は、
私達を屈辱するためにここに呼び寄せたのです。」
屈辱を許さない武人であるゴーロイスの、
眉がにわかにこわばった。
「屈辱とはいかなる理由か」
彼女は咳き込むように答える。
「ユーサーです、
ユーサー・ペンドラゴンが、
私を抱き寄せようとしたのです。」

妻の両手は震えていた。
柔らかい唇は硬直し、
瞳には火花が揺らめいた。
激(げき)した彼女の心には、
腕を引かれた一刹那の感触が、
怪しく変容を遂げ、
自らの密かな願望が、
抱かれたいという願望が、
知らず知らずのうちに彼女をとりこにした。
イグレインは自らがいきなり抱き締められたと信じ、
夫の質問に上ずった声で答え続けた。


 ついにことは決裂した。
怒りに震えるティンタージェルの王は、
配下を率いて王宮を後にする。
これに気づいたユーサーは、
はち切れんばかりの憤怒(ふんぬ)に身を任せ、
直ちにコーンウォールに軍隊を差し向けたのである。
兵達は鎧を整え、
剣を打ち鳴らし、
王城の門を後にした。
こうして束の間の和平は、
燃え上がる恋の炎によって、
1日を待たずして焼却されたのであった。

2007/04/10掲載
2007/06/08改訂

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