アーサー王の物語り(3)

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3.ユーサーとイグレインの心に恋が宿るのこと

 その髪は太陽を受けずともおのずから照り輝き、
肌はルビーの光沢のように滑らかだった。
あごに向かって傾斜する頬には柔らかい唇を携え、
これは神々に使わされた森の妖精か、
あるいは女神自身が舞い降りたのか、
ユーサーは酔いが回るように彼女に溺れていった。
美の女神アフロディーテーでさえも、彼は思った。
彼女の前にひれ伏し、祈りを捧げるに違いない。

 イグレインもまた密かに胸を踊らせた。
ブリタニアを治めし偉大な竜王の、
優雅な振る舞いに心奪われた。
我が夫ゴーロイスは武を愛する人である。
心を緩めることを知らぬ武士(もののふ)である。
愛情が感じられないことはない。
されど常の激しい口調には、
時に恐れを抱くことさえあった。

 まだ少女を離れる前に結ばれた夫である。
自分の父親のような安心もある。
決して嫌いではない。
しかし彼女はきっと、
まだ恋愛を知らぬまま妻となり、
母となって子を育てていたのだった。

 イグレインは知らず知らずのうちにユーサーに引かれ、
口に含んだ杯が胸を暖める頃には、
先ほどからちらりと視線を投げかける権力者の、
熱き情熱に鼓動が高鳴った。
それが淑女の持つ高い倫理と葛藤しては、
彼女の頬をいっそう赤らめる。
心を反らそうと顔を背け、
もう一目(ひとめ)だけと軽く振り向き、
再び燃える瞳に射抜かれて、
慌ててあちらに身をただす。


 やがて祝宴も慎みを忘れ、
酔いどれの狂乱に差し掛かる頃、
ついにユーサーは立ち上がった。
抑えきれない情熱が酒の力を借りて、
せめて想いだけでもあなたの元へと、
脇目もふらず歩いてくる。
イグレインの心はもはや張り裂けんばかり。
ゴーロイスは遙か彼方で、
激しいアクロバット遊技を眺めて手を叩いている。
まるで2人には気が付かない。
「いけない。」
そう想った時には、
ユーサーはもうイグレインの前にひざまずいていた。

 慌てて瞼(まぶた)をぱちつかせる王妃は、
掛ける言葉も見つからない。
竜王は黙って彼女の腕を取ると、
手の甲に優しくキスをする。
イグレインはぱちぱちと自分の心が、
火花を煌めかせるような錯覚を覚えた。
まばたきが止まり、
互いの瞳が溶け合ったような静寂。
恋慕が柄杓(ひしゃく)に満ちてあふれ出すように、
瞳の奥に潜む相手の姿を望みながら、
時が歩みを止めたようだった。
イグレインの頭はもはや、
舞い積もる雪のように真っ白である。
吹雪の中には立った一人の男が居る、
居るとするならば・・・・。

 目の前のユーサーが口を開きかけた。
しかし、突然、
静寂の向こうに沈んだはずの楽師達が、
金管の鋭い響きでファンファーレを響き渡らせ、
イグレインは危ういところで現実の世界に引き戻されたのである。

2007/04/07掲載
2007/06/08改訂

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