その髪は太陽を受けずともおのずから照り輝き、
肌はルビーの光沢のように滑らかだった。
あごに向かって傾斜する頬には柔らかい唇を携え、
これは神々に使わされた森の妖精か、
あるいは女神自身が舞い降りたのか、
ユーサーは酔いが回るように彼女に溺れていった。
美の女神アフロディーテーでさえも、彼は思った。
彼女の前にひれ伏し、祈りを捧げるに違いない。
イグレインもまた密かに胸を踊らせた。
ブリタニアを治めし偉大な竜王の、
優雅な振る舞いに心奪われた。
我が夫ゴーロイスは武を愛する人である。
心を緩めることを知らぬ武士(もののふ)である。
愛情が感じられないことはない。
されど常の激しい口調には、
時に恐れを抱くことさえあった。
まだ少女を離れる前に結ばれた夫である。
自分の父親のような安心もある。
決して嫌いではない。
しかし彼女はきっと、
まだ恋愛を知らぬまま妻となり、
母となって子を育てていたのだった。
イグレインは知らず知らずのうちにユーサーに引かれ、
口に含んだ杯が胸を暖める頃には、
先ほどからちらりと視線を投げかける権力者の、
熱き情熱に鼓動が高鳴った。
それが淑女の持つ高い倫理と葛藤しては、
彼女の頬をいっそう赤らめる。
心を反らそうと顔を背け、
もう一目(ひとめ)だけと軽く振り向き、
再び燃える瞳に射抜かれて、
慌ててあちらに身をただす。
やがて祝宴も慎みを忘れ、
酔いどれの狂乱に差し掛かる頃、
ついにユーサーは立ち上がった。
抑えきれない情熱が酒の力を借りて、
せめて想いだけでもあなたの元へと、
脇目もふらず歩いてくる。
イグレインの心はもはや張り裂けんばかり。
ゴーロイスは遙か彼方で、
激しいアクロバット遊技を眺めて手を叩いている。
まるで2人には気が付かない。
「いけない。」
そう想った時には、
ユーサーはもうイグレインの前にひざまずいていた。
慌てて瞼(まぶた)をぱちつかせる王妃は、
掛ける言葉も見つからない。
竜王は黙って彼女の腕を取ると、
手の甲に優しくキスをする。
イグレインはぱちぱちと自分の心が、
火花を煌めかせるような錯覚を覚えた。
まばたきが止まり、
互いの瞳が溶け合ったような静寂。
恋慕が柄杓(ひしゃく)に満ちてあふれ出すように、
瞳の奥に潜む相手の姿を望みながら、
時が歩みを止めたようだった。
イグレインの頭はもはや、
舞い積もる雪のように真っ白である。
吹雪の中には立った一人の男が居る、
居るとするならば・・・・。
目の前のユーサーが口を開きかけた。
しかし、突然、
静寂の向こうに沈んだはずの楽師達が、
金管の鋭い響きでファンファーレを響き渡らせ、
イグレインは危ういところで現実の世界に引き戻されたのである。
2007/04/07掲載
2007/06/08改訂