アーサー王の物語り(2)

[Topへ] [frameTopへ]

和平の祝宴

 ユーサーはゴーロイスと妃イグレインのために、
王座に次ぐ最上の席を用意し、
祝杯を掲げて高らかに
「ブリトン人の団結を祝す!」
と乾杯の合図を取る。
これに答えてゴーロイスが、
「ユーサー・ペンドラゴンに永久(とわ)の栄光を!」
と杯(はい)を返せば、
一同は高らかに「永久の栄光を!」
と竜王を賛える。

 初めの盃(さかずき)が喉を潤せば、
協定締結(ていけつ)を成しとげた緊張もゆるみ、
王宮はたちまち祝祭色に包まれた。
給仕は器と共に走り、
騎士達は笑い声を上げ、
配下の兵どもが下品な冗談を飛ばす。
盃を豊かにする酒が満ちては引く合間にも、
王に従う楽師達は楽器を掻き鳴らし、
踊り子達は華麗に宙を舞い、
豊かな舞踏と音楽がこだました。
人々は手を打って浮かれ騒ぐ。
ティンタージェル王も心から満足だった。

 顔を見るまではユーサーなど憎き奴だと思っていた。
ローマに被れた愚かな男だと思っていた。
しかしいざ会合を開いてみれば、
ユーサーは度胸も据(す)わっている、
決断力もある、
腕っ節(うでっぷし)は俺にはかなうまいが、
決して弱そうな男ではない。
諸王の王と認めたからとて、
配下となって犬のように従うわけではない。
火急の場合の兵の派遣などお安いご用だ。
これまで我が城を訪れたブリトンの王達よりは、
遙かに諸王の王にふさわしいではないか。
それだけではない、
武人の質素倹約を愛するゴーロイスは、
ユーサーの城のあか抜けた優雅さに打たれ、
己に足らぬものに憧れる、
敬服の念さえ抱(いだ)いていたのだった。


 こうしてゴーロイスは登城の猛々しい殺気を忘れ、
大いに歓び笑ったが、
しかしユーサーの心は穏やかではなかった。
先ほどから気になって仕方がない、
側に控えるティンタージェル王妃のなんと美しいことか。
じつは昼間の出迎えでも、
引き込まれるようなその瞳に、
驚き顔を反らしたぐらいだった。
舞踏に合わせて楽しげに笑うその横顔。
頬の辺りから細い首筋まで、
重ねた酒を受けてうっすらと赤みを帯びている。

 初めはすぐに目を背けた。
しかし気が付くとまた横顔を眺めた。
やがて酒が体を温める頃、
彼の瞳は荒ぶる敵対者ゴーロイスではなく、
激しく舞い踊る楽師達でもなく、
白くか細いイグレインの姿だけを追い求めたのである。


2007/04/04
2007/06/08改訂

[次へ] [上層へ] [Topへ]