アーサー王の物語り(19)

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19.アーサーの誕生

 その日、空は雲一つ無く晴れ渡り、
大地を蹴って進む両軍の地鳴りは、
島を隔てた大陸にさえ響き渡るほどだった。
ユーサーは自ら先頭に立ち、
敵王を率いるロット王と刃(やいば)を交えること数時間。
両軍乱れて弓も繰り出せず、
剣(けん)を振るって敵の血潮を浴びれば、
剣(つるぎ)も鋼鉄(はがね)の煌めきを忘れて赤く染まる。
そのような混戦の中で2人は怯むことなく剣を打ち鳴らし、
ついには大地に足を埋めて斬り合った。
この激しい争乱に動物たちは姿を隠し、
花は震えながらつぼみを閉ざした。
あるは踏みつぶされ、
あるは切り倒される草花の、
悲鳴は地下の妖精たちの世界で悲しくこだましたという。

 マーリンはこの争乱を雲に漂いながら眺めていた。
彼には分かっていた。
ユーサーがこの戦さに勝利して、
ペンドラゴンの称号を高らかに掲げることを。
やがて彼の息子が生まれ、
偉大な王となることを。

 長き戦さは疲れも見せず、
先頭で斬り合う2人に怯む気配は無かったが、
大きく陣を迂回したウルフィアスたちが敵の脇腹を突いた時、
敵軍は大きく突き崩されて浮き足だった。
敵兵は混乱し、騎士たちの馬は怯え、
敵の姿を見失ったような恐怖が沸き起こり、
再び立て直すことは出来なかったのである。
ついにロットは孤立無援となり、
それでもユーサーの体を押し飛ばした隙に、
迫りくる新たな敵の騎士を突き刺し、
その馬を奪って彼方に逃げ延びようとする。
たちまち兵達が弓矢を引き絞る。
「よい、待て。」
ユーサーはその背中を打たせず、
代わりに敵陣に降伏を勧告したのである。
ロットはペンドラゴンに伏して忠誠を誓い、
ブリトン人の結束はついに回復された。
反旗を翻した王のうち、
生き残ったものはロット含めほんの数名であった。

 マーリンは何も手を貸さず、
一部始終をゆらゆらと眺めていた。
人の争いなどに興味は無い。
また人間の争いに関わらないこと、
それは彼を支配する掟でもあった。
彼はただ、
裏切り者のらく印を押され、
ティンタージェル城で討たれかけ、
ロットの陣営でも斬りかかられた、
悲劇の騎士のことだけは気に掛けてやった。
彼はゴーロイスの怨みを晴らすべく、
戦さより戻るユーサーを待ち伏せて、
危うく護衛の騎士たちに八つ裂きにされ、
壮絶な最後を遂げるところであったのだ。
そうである。
彼こそあの知略に長けたゴーロイスのお気に入り、
若き名将ブラシャスであった。
マーリンは彼がユーサー軍に下るために、
一つだけ素敵な仕事をしてやった。
これはブラシャスの伝記に記されている。

 配下に下ったブラシャスの仲介もあり、
ティンタージェル城はついに開城した。
ユーサーはまだ妻のない自分と、
ティンタージェル王妃を結び、
国内の平安の象徴とすると宣言し、
臣下たちはさすが竜王と賞賛した。
もちろん反対がない訳はない。
しかしついに2人の結婚式が行われ、
この地でイグレインはアーサーを生んだのである。
ブリトン人の王として島を統一し、
地上に束の間の楽園をさえ築いた伝説の王を。

 アーサーはマーリンに預けられ、
マーリンは子をエクターという騎士に育てさせた。
イグレインは息子を取られたためだろうか、
それともゴーロイスを殺し、
自らを奪ったユーサーの計略を知ったのだろうか。
結婚してからの彼女は、
ユーサーを愛する心と、
激しく憎む心が絡み合い、
彼女の3人の娘に小さな影を投げかけることになった。
女性の心というものはとかく分かりがたいものである。
しかし単純明快のユーサーは、
小さな影など露も知らず、
しばらくは幸せに浸り国政を行った。
再び国内を揺るがす諸王の反乱が起こる時、
その幸せは永遠に奪い去れれることになるはずだ。
しかしそれはまた次のお話し、
アーサー王の物語の中でお伝えしよう。

                    (第1部終了)

後書き(メール掲載時のもの)

 短期決戦アーサー王物語、ご購読感謝感謝。これよりわたくし古事記の世界に移行したいと思います。この文体での小説的なアーサー王物語の紹介はこれにて終了させて頂きます。これより先は、小説の下書きとしてのアーサー王の紹介版を、しばらくの間は、簡単なあらすじ書きで不定期配信する予定です。ただし文章は「唖然」とするほど素朴な記述になることでしょう。
 アーサー王はなかなか面白い人物相関関係があり、何も聖杯がうろちょろしなくても、戦国物語的な叙事詩が描けるなかなか優れた素材なのですが、現在の優先順位は古事記の方が上なので、そのうち粗筋すら途切れないとも限りません。そうなったら申し訳ない。せめてベイリンとベイランの辺りまでは書いてみたいものです。

2007/06/05掲載
2007/07/04改訂

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