その日、空は雲一つ無く晴れ渡り、
大地を蹴って進む両軍の地鳴りは、
島を隔てた大陸にさえ響き渡るほどだった。
ユーサーは自ら先頭に立ち、
敵王を率いるロット王と刃(やいば)を交えること数時間。
両軍乱れて弓も繰り出せず、
剣(けん)を振るって敵の血潮を浴びれば、
剣(つるぎ)も鋼鉄(はがね)の煌めきを忘れて赤く染まる。
そのような混戦の中で2人は怯むことなく剣を打ち鳴らし、
ついには大地に足を埋めて斬り合った。
この激しい争乱に動物たちは姿を隠し、
花は震えながらつぼみを閉ざした。
あるは踏みつぶされ、
あるは切り倒される草花の、
悲鳴は地下の妖精たちの世界で悲しくこだましたという。
マーリンはこの争乱を雲に漂いながら眺めていた。
彼には分かっていた。
ユーサーがこの戦さに勝利して、
ペンドラゴンの称号を高らかに掲げることを。
やがて彼の息子が生まれ、
偉大な王となることを。
長き戦さは疲れも見せず、
先頭で斬り合う2人に怯む気配は無かったが、
大きく陣を迂回したウルフィアスたちが敵の脇腹を突いた時、
敵軍は大きく突き崩されて浮き足だった。
敵兵は混乱し、騎士たちの馬は怯え、
敵の姿を見失ったような恐怖が沸き起こり、
再び立て直すことは出来なかったのである。
ついにロットは孤立無援となり、
それでもユーサーの体を押し飛ばした隙に、
迫りくる新たな敵の騎士を突き刺し、
その馬を奪って彼方に逃げ延びようとする。
たちまち兵達が弓矢を引き絞る。
「よい、待て。」
ユーサーはその背中を打たせず、
代わりに敵陣に降伏を勧告したのである。
ロットはペンドラゴンに伏して忠誠を誓い、
ブリトン人の結束はついに回復された。
反旗を翻した王のうち、
生き残ったものはロット含めほんの数名であった。
マーリンは何も手を貸さず、
一部始終をゆらゆらと眺めていた。
人の争いなどに興味は無い。
また人間の争いに関わらないこと、
それは彼を支配する掟でもあった。
彼はただ、
裏切り者のらく印を押され、
ティンタージェル城で討たれかけ、
ロットの陣営でも斬りかかられた、
悲劇の騎士のことだけは気に掛けてやった。
彼はゴーロイスの怨みを晴らすべく、
戦さより戻るユーサーを待ち伏せて、
危うく護衛の騎士たちに八つ裂きにされ、
壮絶な最後を遂げるところであったのだ。
そうである。
彼こそあの知略に長けたゴーロイスのお気に入り、
若き名将ブラシャスであった。
マーリンは彼がユーサー軍に下るために、
一つだけ素敵な仕事をしてやった。
これはブラシャスの伝記に記されている。
配下に下ったブラシャスの仲介もあり、
ティンタージェル城はついに開城した。
ユーサーはまだ妻のない自分と、
ティンタージェル王妃を結び、
国内の平安の象徴とすると宣言し、
臣下たちはさすが竜王と賞賛した。
もちろん反対がない訳はない。
しかしついに2人の結婚式が行われ、
この地でイグレインはアーサーを生んだのである。
ブリトン人の王として島を統一し、
地上に束の間の楽園をさえ築いた伝説の王を。
アーサーはマーリンに預けられ、
マーリンは子をエクターという騎士に育てさせた。
イグレインは息子を取られたためだろうか、
それともゴーロイスを殺し、
自らを奪ったユーサーの計略を知ったのだろうか。
結婚してからの彼女は、
ユーサーを愛する心と、
激しく憎む心が絡み合い、
彼女の3人の娘に小さな影を投げかけることになった。
女性の心というものはとかく分かりがたいものである。
しかし単純明快のユーサーは、
小さな影など露も知らず、
しばらくは幸せに浸り国政を行った。
再び国内を揺るがす諸王の反乱が起こる時、
その幸せは永遠に奪い去れれることになるはずだ。
しかしそれはまた次のお話し、
アーサー王の物語の中でお伝えしよう。
(第1部終了)
短期決戦アーサー王物語、ご購読感謝感謝。これよりわたくし古事記の世界に移行したいと思います。この文体での小説的なアーサー王物語の紹介はこれにて終了させて頂きます。これより先は、小説の下書きとしてのアーサー王の紹介版を、しばらくの間は、簡単なあらすじ書きで不定期配信する予定です。ただし文章は「唖然」とするほど素朴な記述になることでしょう。
アーサー王はなかなか面白い人物相関関係があり、何も聖杯がうろちょろしなくても、戦国物語的な叙事詩が描けるなかなか優れた素材なのですが、現在の優先順位は古事記の方が上なので、そのうち粗筋すら途切れないとも限りません。そうなったら申し訳ない。せめてベイリンとベイランの辺りまでは書いてみたいものです。
2007/06/05掲載
2007/07/04改訂