柔らかき唇は白き肌を誘い、
深き瞳はとろけるように何かを求めている。
小さな鎖骨を滑り落ちるように、
ふくよかな乳房に顔を埋(うず)めれば、
彼女の細く伸びた鼻のあたりから、
こもったような甘いため息がこぼれた。
ユーサーはそのまま手のひらで胸を柔らかくして、
首筋のあたりに優しくキスをする。
彼は必死に押さえていた。
思いを果たしたい熱き情熱が、
永久(とわ)に結ばれたい愛おしさと葛藤し、
若者の漲る激しさを懸命に抑え、
少しずつ彼女を柔らかくするように、
ゆっくり身と心を暖めていったのである。
それにしても、なんと弾力のある肌だろう。
今まで抱いたどのような美女でさえも、
彼女と比べたら・・・。
ユーサーは次第に我を忘れて女を愛撫した。
イグレインは混乱した。
我が夫がこれほど優しく自分を暖めるはずがない。
武勇の人であるゴーロイスは、男女の営みも率直で、
女の喜びなどに頓着しないのだった。
だからイグレインは知らなかった。
男女の交わりに、
こんなにも深い甘く切ない営みが隠されているとは・・・。
彼女は今、初めての感情に身を震わせ、
果たしてこの男が夫であるはずはないと瞳を返せば、
しかしそこには紛れもないゴーロイスが、
自分の体を柔らかそうに弄び、
不意に口づけを交わしたり、
胸を手のひらで遊んだり、
やがて太股のあたりから手を這うようにして・・・。
イグレインの頭はその度に白くきらめいたり、
黄色くよどんだりするようで、
だんだん自分が夢に溺れるように男に身を委ねていった。
突然、我を忘れたユーサーが
「イグレイン、大好きだよ」
と耳元でつぶやいた。
イグレインは鼓動が飛び出しそうになった。
絶対に違う。
絶対に違う。
これは夫なんかじゃない。
夫がこんなことを言うものか。
ねえ、誰、あなたは誰なの。
イグレインが、相手の深き瞳の奥底をずっとのぞき込んだとき、
はっとして体が固くなった。
この瞳は、
この情熱的な愛情は、
戦さの始まる前、
国王ペンドラゴンの宮殿で確かに見た、
あの瞳の奥にひそむ少年。
そんなことって。
イグレインは動揺した。
鼓動が激しく高まるのを感じた。
かろうじて、体を優しくする男の耳元で、
「あなたは、あなたは誰なの」
と尋ねた。
しかしもはや男にはその質問は通じなかった。
彼は黙ったままその唇を奪うと、
彼女が何も考えられないように、
強く強く締め付けたからである。
イグレインにももう、
頭から言葉が抜け落ちてしまった。
もういい、
だって目を開けば紛れもない私の夫だもの。
もし悪魔か、
それとも精霊の仕業で、
私が騙されたのだとしても、
私にはそれを見抜くことなど出来ないもの。
今はいい、
今はこのまま、
この人に身をゆだねて・・・。
その時、
突然イグレインは遠くで叫び声を聞いたような気がして、
はっとして身を起こした。
「どうしたのだ、イグレイン。」
「今、遙か彼方で、誰かが私を呼んだような。」
「それは深い霧に怯えた獣が、仲間を求めて鳴く叫び声だ。」
「違う、だってあれは、人の声だったもの。」
「ならば霧に迷って城に近づいた村人に、
門番が怒鳴りつけたのだ。
イグレイン、そんなことは忘れて、
どうか私のことだけを見つめていて欲しい。」
イグレインは、はっとして顔を赤らめ、
やっぱり違うと瞳を覗き込んだが、
今はもう何も考えない、
彼のたくましき体に腕を絡めた。
その後2人は、
長い間幸せの時を駆けめぐり、
駆け昇りながら、
すべてを使い果たしたように、
共に倒れ込んで眠ってしまったのである。
そしてこの時、
イグレインの体の中に、
アーサーが宿ったのであった。
後に偉大な王として、
父を継いでブリテン人の上に立つ偉大なアーサーの魂が。
2007/05/19掲載
2007/07/02改訂