アーサー王の物語り(14)

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14.策略

 「見よ。遠く松明の火が霧に紛れて少しずつ遠ざかる姿を。」
 深き霧の向こうにもかがり火が見えるほど近づいたゴーロイスの軍は、今まさに突撃の合図を待って、我が領土を荒らしたユーサーへの復讐に怒りを高まらせた。
守りを願い出たブラシャスにティラビル城を任せ、
先鋭の武将どもはことごとく王の周囲に馬を進め、
その後ろに不屈の兵どもが、
鎧を打ち鳴らして、槍をざわつかせた。
闇はますます大地を覆い、皆の顔も色を失い始めたが、
鉄(くろがね)の鎧だけは、まだ闇よりも黒く、
軍はさながら昆虫の群のようであった。


「皆の者、
ローマに媚びを売りブリトンの王を語る偽のペンドラゴンを、
今こそ亡ぼそうぞ!」
 威厳に満ちたゴーロイスが、
激しく手を振り下ろし突撃の合図を告げれば、
たちまち歓声に呼応して銅鑼が鳴り響き、
兵どもは雪崩をうって敵陣めがけて走り出した。
驚いたかがり火が逃げ出したか、
それとも慌てた兵士が蹴飛ばしたか、
不意に火の粉が飛び上がって、
「敵襲。敵襲。」と悲鳴が響く中、
勝利を確信したゴーロイスと部将どもが、
馬を蹴っては敵兵に斬り掛かる。
火の粉が血を浴びて舞い踊る最中(さなか)に、
ユーサーの兵どもは叫びながら逃げまどうよう。
抵抗する気力もなく、
東へ東へと逃れて行くではないか。
「追え、一兵たりとも生きて帰すな。」
 霧に惑わされ血に酔って、
ユーサーの敗兵を斬り殴るゴーロイスの陣は、
今や勝利を確信して大きく縦に伸びきったのであった。


 その瞬間だった。
霧が張り裂けるほど甲高いラッパが一斉に轟き、
闇から生まれた屈強の兵達が、
竜の戦士に恥じぬ武勇を掲げ、
ゴーロイス軍の両側から襲い掛かった。
ラッパの響きに肝を冷やし、
注意を側面に反らす暇(いとま)もないほど、
竜の戦士たちは激しく躍りかかり、
剣先を変える暇(ひま)もないほど、
勢いよくゴーロイスの兵をなぎ倒した。
慌てた兵どもは陣形を失い、
前後は遮断され、
敵の方角さえ分からない。
もはや進退不覚の大混乱に落ち入り、
駆り立てられた勇気は挫かれ、
やがて狼狽に取って代わった。
かがり火すら無い暗き霧の中で、
闇に襲撃を受けたような恐怖が、
闘う意志を奪い去ったからである。
もはや統制を失った軍は、
追われる羊の群れのようであった。
ゴーロイスがようやく己の不覚を悟った時には、
してやられた、追っていたはずの敵軍がきびすを返し、
隊列を整え前方から迫ってくるではないか。
今や、ゴーロイスは逃げ道すら失った。
「おのれ、小賢しい真似をする。ローマにかぶれ、
卑怯な戦さを仕掛けおって。戦なら正面から戦え!」

 叫んだゴーロイス。
さすが武勇の男、
屈強の部将どもを従え、
恐ろしい数の敵兵の進軍を、
わずか数十名で正面から受け止めた。
怒りにまかせてなぎ倒し、なぎ倒し、
斬った兵を掴み上げて、そのまま敵に投げつける。
10人ばかりの兵もろとも大地に吹き飛ばした。
また奪った敵の槍を投げつければ、
狙い違わず高名そうな騎士の胸を射抜く。
半分に折れた盾を遠く投げつければ、
豊かな鎧を着た騎士の首はすっぱと地面に落ちた。
驚いた兵たちが立ち止まって、
敵の顔に注意を払った瞬間である。
ゴーロイスがありったけの声で、
コーンウォールのすべての眠りを破る雄叫びを張り上げたのである。
肝を冷やした竜の兵士たちは、
あまりの恐ろしさに進軍を止め、
ゴーロイスの燃える瞳だけが、
闇に包まれた夜を照らすように燃えあがる。
ユーサー軍は慌てて遠弓の準備を始めたが、
それより早く、ゴーロイスの武将達の放った幾つもの矢が、
ようやく前に出た遠弓隊と、
指揮する部将の首筋を射抜いた。

2007/05/11掲載
2007/06/17改訂

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