アーサー王の物語り(11)

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11.ウルフィアスの大勝負

 その日の夕暮れ前である。
技使いのマーリンは両手を一杯に天に突き上げ、
深呼吸をするように静かに手の平を返し、
空を呼び込むように振り下ろした。
するとどうだろう、
霧が静かに静かに降り積もるように、
地表から空へと視界を遮っていったのである。
鳥たちは慌てて寝ぐらに逃れ、
水平線に向かう太陽も今は、
ぼんやり光の方角すら分からない。
ついに向かいのあなたの姿さえ、
しかと分からなくなった頃、
マーリンは国王と共に、
密かに陣を離れたのである。
馬を走らせティラビル城を迂回し、
霧をまとって進む2人の姿を見た者があれば、
驚いたに違いない。
そこにはユーサーとマリーンはなく、
ティンタージェル王ゴーロイスと彼の重臣ジョルダンが、
怯える馬を操って霧の中を急いでいたからである。
マーリンはユーサーの頬をなでゴーロイスの顔に変えると、
自らもまばたき一つでジョルダンに変容し、
2人で向かうのは言わずもがな、
イグレインの待つティンタージェル城であった。

 その頃やはりマーリンの術を受けたウルフィアスは、
ゴーロイスの重臣ブラシャスに成りすまし、
信頼熱き10人の配下に敵兵の装備をさせると、
食料を積んだ重い荷車を運ばせていた。
ティラビル城に入り込むつもりらしい。
折しもティラビル城では、
ブラシャスから援軍を告げる手紙が届き、
ユーサー討伐の機運が一気に高まっているところ。
それが今日の午後になって、
敵兵より奪い取った密書を開けば、
ユーサー軍は食料もつき、
王はいち早く王都に帰還し、
今夜静かに全軍撤退することが記されているではないか。
ゴーロイスはすぐ武将を集め、
これが偽りか、誘いの罠か審議していたが、
そこに走り込んだ兵士が息せき切って(下注)告げるには、
援軍の要請に出たブラシャスがついに戻り、
開門を待っているとのことである。
武将どもから「おお」と感嘆(かんたん)の声が上がる。
臣下数名が城壁に出て顔を覗(のぞ)かせれば、
霧の中で夕暮れが迫り、人の顔さえ危ういくらいだが、
しかし間違うはずもない、城門に控えているのは、
確認のため兜を外した凛々しきブラシャスだ。
ただちに城門が下ろされ、ブラシャスと荷車の兵達は、
堂々としてティラビル城に入城した。


 こうして敵将に化けたウルフィアスと荷車の兵達は易々と城内に入り、城の配置が分からず危なく声を掛けられながらも、マーリンから得た知識を総動員し、ついに敵王の前に進み出た。これが武人として名高いゴーロイスの勇姿か、戦場での顔は和平の時とは違い、恐ろしいほどの威圧感である。しかしウルフィアスよ、今こそお前の優れた度胸が試される時だ。

「ゴーロイス王、
かねてより約定を交わした王達からは、
例外なく援軍の支持を受け、
この機にユーサーを討ち果たすため、
出陣の準備に取り掛かるとのこと。
そしてここに戻る途中、
重大な情報を入手したのです。」
 いったん息を切ったウルフィアスを、
すべての者が見詰めている。
しかし彼は怯まなかった。
もはや自らをブラシャスとみなし、
役を演じきって見せるまでのこと。
「敵の伝令を捕らえ詰問(きつもん・下注)したところ、
驚くべき事実が判明しました。
ユーサーはすでに城に立ち返り、
敵軍もまさに今夜、
闇に乗じて撤退するつもりです。」

 これを聞いたゴーロイスの喜びようといったらなかった。
もともと懐疑や策略を好まない武人としての性格が、
たちまち前面に表われる。
「よくやった。
二重の知らせが袖を合わせ、
もはや疑う余地はない。
それが信頼すべきブラシャスの申し出なのだ。
皆の者よく聞くがいい、
わしはこれより撤収するユーサー軍の背後を襲い、
完膚無きまでに叩きのめしてやるつもりだ。
どうだ、依存はないか。」
と一同を見渡せば、
悲しいかな、悲しいかな、
このような時こそ必要なブラシャスが留守の合間に、
偽物のブラシャスが紛れ込むなど、誰が思い付くだろう。
ここで偽のブラシャスが声も高らかに、
「霧に紛れて、敵陣に足を踏み入れ、
残り少ない敵の食料を奪い取って来ました。
10人引きの荷車1台。酒の樽もあるようです。」
と告げる。
さすがはブラシャス、
武将達から感嘆の声が上がる。
「それでは敵を討ち滅ぼして、
その酒で祝杯を上げようではないか。」
とゴーロイスが立ち上がれば、
全員勇みだって勝ちどきを上げ、
兵達は武具を整えティラビル城を後にした。
もう夕闇は暗く、遠く敵陣には松明が掲げられている。
いよいよ決戦の時は迫っていた。


言葉について

息せき切って

・「息急(いきせ)き」。(副詞)息をはあはあとはずませるさま。急いでいるさまの形容。(スーパー大辞林)「息急きと駆けて来る。」
・「息せき切る」。(動詞ラ5段)急いで走るなどして、息を弾ませる。(スーパー大辞林)

詰問(きつもん)

・(名詞)とがめて問いただすこと。厳しく問いつめること。(スーパー大辞林)

2007/05/01掲載
2007/06/11改訂

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