「改めて、兄のために礼を言わなければならない。」
ユーサーは、
巨大な石碑で兄の無念を沈めてくれたマーリンに礼を言った。
「礼には及ばない。
アンブロシウスの弔いの儀式は行ったが、
あれは柱であり鍵なのだ。
決して慰霊碑ではない。」
「鍵とは。」
「とにかく王の望みを叶えるために、
私は再びコンスタンティヌスの子供達に会いに来たのだ。
初めて諸王をまとめたアルモリカ族の王コンスタンティヌス、
彼の3人の子供達。
長男のコンスタンスはヴォーティガンに騙され王の座を追われ、
そのヴォーティガンを討ち果たしたアンブロシウスも毒殺され、
やがて王の座から落ちた。
そして兄と共にヴォーティガンに立ち向かった少年が、
ペンドラゴンの名称を受け、諸王の王となった。
ユーサー・ペンドラゴン、あなたのことだ。」
マーリンの言葉はユーサーに己の使命を思い起こさせた。
すると何だか、呼んだ理由を告げるのが急に恥ずかしくなってきた。
あまねく人の心を透かし見るマーリンがそこを掴まえて、
「臆することはない。
王にふさわしい愛もまた、
英雄には必要なものだ。」
と知らん顔して言うものだから、
ユーサーもその想いを白状することにした。
隠し立ては無用と悟ったのだ。
マーリンもなかなかの食わせ者である。
急に聞き上手になって、
輝かしい瞳で相づちなど打つものだから、
王もつい熱が入って、
イグレインへの想い、
自らの苦しみ、
切なさ、やるせなさ、
眠れない夜のことなどを語り始め、
ついにはベットに入ってからも
「どたん、ばたん」
と眠れないのだと、
身振りまで交えて力説してしまったのである。
はたで見ていたウルフィアスは失礼ながら、
あまりに愚直の子供っぽさに、
笑いを堪えるのに精一杯だった。
しかし、それが国王の優れた性質でもあるのだ。
知らぬ国王は、ウルフィアスも忘れ、
褒賞を持って懇願する始末だった。
「願いが成就した暁には、
私はお前に対していかなる褒美をも与えよう。
どんな異国の宝物でも、莫大な資金でも、
美しい娘でも、お前が望むなら、
国の一部を分け与えてもよい。
私のイグレインへの想いは、
それほどに深く大きいものなのだ。」
素直を愛するマーリンは、
ユーサーの望みを叶えることにした。
「私の願いはただ一つ、
イグレインとの間に子供が生まれたら、
息子の養育を任せて貰いたい。」
「それは嬉しい。
私とイグレインのあいだに子が出来ることを、
お前がすでに予言してくれているのだからな。
もちろん私の後継者として育ててくれるのだろうな。」
「そのために私が預かるのだ。
ではさっそく始めよう。
私の計画を踏み外さず、
間違いなく行動するように。
自分の命が大切ならば。」
「分かった、お前の言葉に従おう。」
「では私達はこれよりティンタジェル城に向かう。
ウルフィアス、軍の指揮はお前が行い、
今日中にこの戦さを終わらせるのだ。」
ユーサーは全てを了解し、
軍議でウルフィアスに指揮を委ねることを告げた。
ウルフィアスであれば、
誰にも依存のあるはずはない。
ユーサーは辛うじて軍議を乗り切ったものの、
一人部屋に戻ると駄目だった。
遠足を待つ少年のように、
イグレインのことで頭が一杯になり、
どったんばったんと、
偉大な国王たるものが部屋を騒がせ、
身支度を調えながら時折鏡など見て、
しかめっ面をしてみせるので、
マーリンはこれを壁の向こうから眺めて、
一人で腹を抱えて笑い転げた。
2007/04/28掲載
2007/06/09改訂